不採用者マーケティングという新発想

──「落ちた人」で終わらせず、次の価値につなげる仕組み
採用活動をしていると、多くの企業でこんなことが起きています。
「せっかく広告費や紹介料をかけて応募を集めたのに、採用できたのは1〜2名だけ」
「面接で悪くなかったけど、今回は枠がなくて見送り」
「また採用が出たときは、またゼロから母集団をつくる」
このときに捨てられているのが、“不採用になった応募者”です。
でもここで一歩発想を変えて、**「不採用者を1回で終わらせず、マーケティング対象として育てる」と考えると、採用はもっと楽になります。これがこの記事でお伝えしたい「不採用者マーケティング」**です。
1. 不採用者マーケティングとは何か
不採用者マーケティングとは、
一度応募してくれたが今回は採用に至らなかった人を、将来の採用・紹介・顧客化・パートナー化に向けて継続的にナーチャリング(育成)していくこと
を指します。
「不採用者=終わり」ではなく、
- 将来また採用するかもしれない見込み人材
- 他社に紹介できる人材
- 自社サービスの顧客になり得る人
- アンバサダー(口コミを広げてくれる人)
として**“関係を続ける対象”にしていくのがポイント**です。
採用は本来マーケティングに近い活動なのに、従来の採用では「応募→選考→採用/不採用→終了」で終わっており、リードナーチャリングの発想がほとんどありませんでした。ここを“マーケティングの目”で見直すだけで、採用コストもブランドも改善していきます。
2. なぜ今それが必要なのか
理由はシンプルで、採用の獲得単価が上がっているからです。
- 媒体掲載費は年々じわじわ上がっている
- エージェントの成功報酬は年収の30〜35%が当たり前
- スカウトも返信率が下がってきている
つまり「1人の候補者と接点を持つまでのコスト」が高くなっている以上、その1人を1回で捨てるのはあまりにももったいないのです。
マーケティングなら「1回問い合わせしてくれたお客さん」を絶対に捨てませんよね。それと同じことを、採用でもやろうというのが不採用者マーケティングです。
3. 不採用者は実は“高品質なリード”である
「不採用になったんだから、優秀じゃなかったんでしょ?」と思うかもしれませんが、実務ではそうでもありません。よくあるのは次のパターンです。
- 今回は枠が1人だけだった
- 年収レンジが少しズレていた
- 今回は別部署を優先した
- 入社時期が合わなかった
つまり、能力やカルチャーがNGだったわけではない人がかなり含まれています。
さらに言うと「自社のことを理解したうえで応募してきてくれた」「面接で一度話している」「採用サイトを見ている」という意味で、ホットリードに近い状態です。ここを“応募者リストから削除”してしまうのは、マーケティング的にはありえない話です。
4. 不採用者マーケティングの基本フロー
実際にどう動かすかを、最小構成で書きます。難しく考えなくてOKです。
(1) 不採用者を必ずデータベースに残す
・名前
・応募職種
・面接到達度
・見送り理由
・今後案内して良いか
を残しておきます。これは前にやった「不採用者データベース」と同じ考え方です。違うのは“採用目的に限らない”ことです。
(2) 採用以外の情報も配信する
不採用者マーケティングなので、配信する内容は「募集開始しました」だけではなくてもいいです。
- 新しい事業・サービスのお知らせ
- セミナー・ウェビナーの案内
- 社員インタビュー
- 資金調達や受賞のニュース
- 採用広報記事
こうした情報を3〜6ヶ月に1回くらいの頻度で送ると、「あのとき応募した会社、ちゃんと伸びてるな」と思ってもらえます。これが“保温”です。
(3) 募集が出たら最初にこのリストに声をかける
媒体に出す前に、「以前ご応募いただいた方に先行でお知らせです」と一斉送信します。ここで1〜2名でも候補者化できれば、その分広告費が浮きます。これが採用コスト削減に直結します。
(4) 他社への紹介(キャリアリレー)に回す
ここが今回のユーザーさんの文脈と一番近いところです。
「今回うちでは見送りでしたが、経験的には◯◯社さんに近いと思ったので、ご紹介してもよいですか?」
という導線を作っておくと、不採用者の満足度が上がるだけでなく、自社は“人を回してくれる会社”として他社からも人が回ってくるようになります。ここまでいくと、採用はほぼマーケティングの世界です。
5. どういうコンテンツを送るといいか
不採用者に送るときに大事なのは、「次応募してください」だけにならないことです。マーケティングなので、“この会社とつながっておいた方がいい”と思ってもらうコンテンツを混ぜます。例えば:
- 「◯◯職がキャリアを伸ばすために意識すべき3つのこと」(職種別ノウハウ)
- 「当社の選考で大事にしているポイント」(選考フィードバックを一般化したもの)
- 「今後1年の採用計画の方向性」(いつ頃なら応募しやすいかを伝える)
- 「今回ご応募いただいた方へ感謝をこめて:社員の1日紹介」(会社の透明性を出す)
こうしたコンテンツを送ると、相手側が「この会社、丁寧だな」「また募集が出たら応募しよう」と思いやすくなります。
6. 不採用者マーケティングのKPI
「マーケティングって成果がわかりにくい」と言われがちですが、次のように指標を置いておけば効果測定できます。
- 再応募率:過去不採用者のうち、もう一度応募してくれた人の割合
- プール経由採用数:媒体・エージェントを使わずに、不採用者リストから採用できた人数
- 他社紹介率:不採用者に「紹介できる人がいたら教えてください」と送ったときの反応率
- メール開封率・クリック率:保温できているかの指標
- リスト維持率:1年後も連絡がつく人の割合
このあたりが安定して高ければ、「不採用者マーケティングが回っている」と判断できます。
7. 法務・個人情報で気をつけること
もちろん、個人情報の取り扱いは慎重にする必要があります。
- 不採用通知時に「今後の採用情報をお送りしてもよろしいでしょうか」を1文入れておく
- 配信停止の方法を必ず明記する
- 他社紹介に回すときは、本人の同意を取る
- 採用目的以外の営業メールをしない(関係性を壊す)
これをやっておけば、無理に“営業化”して嫌われることはありません。あくまで「あなたとまた働くかもしれないからつながっていたい」という姿勢を大事にします。
8. まとめ:採用は「点」から「面」へ
- 不採用者は、実はコストをかけて獲得した“超ホットな候補者”である
- 彼らを捨てずにナーチャリングするのが「不採用者マーケティング」
- 定期的に情報発信し、募集時に最初に声をかけるだけで採用コストは下がる
- キャリアリレー型で他社に回すと、逆流で自社にも良い人が来る
- KPIを置けば、経営にも説明しやすい

