採用ROIを最大化する考え方

──「1人いくらで採れたか」ではなく「採った人でいくら稼げたか」を見る
「求人広告に30万円使った」「エージェントに80万円払った」
ここまでは多くの会社が追えているのですが、ここで終わってしまうと**“採用にお金をかけて終わり”の組織**になります。
本当に見るべきなのは、採用に投下したお金や時間が、何ヶ月後・何年後にどれくらい会社の成果になったかです。これを見える化するのが「採用ROI(Return on Investment)」です。
今回は、採用ROIをわかりやすく定義しながら、さっきまでの「不採用者データベース」「タレントプール活用」とどうつなげるかまで一気につなげて説明します。
1. 採用ROIとは何か?
ざっくり言うと、「採用に使ったコストに対して、どれだけリターンを生んだか」を数値で見ることです。
最もシンプルなイメージはこんな式です。
採用ROI = 採用した人が生み出した利益 ÷ その人を採用するまでにかけたコスト
ここでのポイントは「利益」を見ること。
売上ベースで見てしまうと、営業やCSなど売上に近い職種ばかりが評価されてしまいます。採用の投資価値を正しく見るなら、粗利や営業利益への寄与で見るのが本来の姿です。
2. 採用コストってどこまで入れるの?
「コスト」は広告費やエージェントフィーだけではありません。実際にはこんなものを入れておくと精度が上がります。
- 求人広告費・媒体費
- エージェント成果報酬
- スカウトツール、ATSの月額
- 面接にかかった現場の時間(時給換算)
- 採用担当の人件費の一部
- 入社後1〜3ヶ月のオンボーディング工数
ここまで入れると、「採用って意外と高いな」と気づくはずです。
この“意外と高い”が見えないと、「とりあえず求人出しておいて」型の採用が続き、結果としてROIが下がります。
3. リターン(分子)をどう測るか
営業職のように売上に近い職種は分かりやすいです。
例)
- 営業Aさんが入社1年で1200万円の粗利を作った
- 採用にかかったコストが60万円だった
→ 採用ROIは 1200万 ÷ 60万 = 20倍
一方で、バックオフィスや開発など、直接数字に出にくい職種もあります。その場合は、事業側のKPIに寄与したかどうかで代理指標を作ります。たとえば、
- 経理:月次決算が10日→5日に短縮(→経営意思決定が早くなり、機会損失削減)
- 採用担当:年間採用単価を30%下げた(→会社全体の人件費投資が最適化)
- エンジニア:新機能リリースが月1→月3になった(→売上の最大化余地が増えた)
このように、「この人を採ったことで会社がどれだけ得したか」を数値に寄せていきます。完全に正確でなくても構いません。重要なのは**“採用をコストではなく投資で見る文化”**をつくることです。
4. 採用ROIが低くなるパターン
逆に、採用ROIが下がってしまうのはこんなときです。
- 毎回新規で母集団を買っている
データを残さず、毎回媒体・エージェントに頼っていると、分母のコストが膨らみます。 - 早期離職が多い
3ヶ月・半年で辞められると、リターンを生む前に投資が消えます。採用ROIはほぼ0になります。 - 事業側と要件がすり合っていない
「とりあえず良さそうだから採った」人は、成果が出るまでに時間がかかるうえ、配置転換も増えるのでROIが落ちます。 - 不採用者を捨てている
前回の選考で来てくれた“良いけど今回は落とした人”をもう一度使えないと、毎回新規獲得コストが発生するので、母集団形成コストが累積します。
ここから逆算すると、**「過去の候補者を再利用できる採用組織は、ROIが自然に上がる」**ということが見えてきます。
5. 不採用者データベース・タレントプールと採用ROIのつながり
ここまで読んで「これ、さっきの話と同じ流れやん」と思ったと思います。そうです。
実は「不採用者を資産化する」「タレントプールを活用する」というのは、すべて採用ROIを上げるための打ち手です。
- 過去に会った人を使えば、広告費・紹介料がかからない → 分母(コスト)が下がる
- もともと評価が高かった人に声をかけるので、立ち上がりが速い → 分子(リターン)が出るまでが短い
- 相互紹介(キャリアリレー)を組めば、無料で候補者が増える → 継続的に低コスト採用ができる
つまり、「候補者との1回の接点を、何回分の採用チャンスに変えられるか」がROIに直結する、という考え方です。
6. 実務でやるならこの3つを見ておく
「ROIって難しい指標を持ち込むと現場が止まるのでは?」と心配になるかもしれませんが、まずはこの3つだけで十分です。
- 採用単価(1人採るのにいくらかかったか)
→ 広告+紹介+工数を全部足して割る。毎月・四半期で見る。 - 立ち上がり月数(何ヶ月で黒字になる働きをしたか)
→ 営業なら受注、開発なら機能リリース、バックオフィスなら業務引き継ぎ完了まで。 - 1年後残存率(1年後もいるか)
→ ここが低いとROIは必ず低くなります。離職は最大のコストです。
この3つをGoogleスプレッドシートでもいいので追いかけると、「この職種・この媒体・この採用フローはROIが高い/低い」が見えてきます。見えたら、高いところに予算を寄せるだけです。
7. 採用ROIを上げるための打ち手リスト
最後に、ROIを高める具体的な施策を並べておきます。上から順にやると効きやすいです。
- 不採用者を必ずデータベース化する(過去に会った人を捨てない)
- タレントプールに“また話したい人”を即登録する(将来採用の在庫をつくる)
- 募集開始前にプールに一斉連絡する(無料で母集団を作る)
- エージェント・媒体は“初回だけ”に寄せる(毎回使わない)
- オンボーディングをテンプレ化して立ち上がりを早くする(リターンを前倒しする)
- 早期離職者の原因を必ず潰す(ROIを0にしない)
- 事業側の要件と人事の要件を毎月すり合わせる(ミスマッチ採用を減らす)
ここまでやると、採用が「お金のかかる部門」から「お金を増やすための投資部門」に見え方が変わります。
8. まとめ
- 採用ROIは「採用でどれくらい儲かったか」を見る指標
- コストには広告・紹介料だけでなく、面接工数やオンボーディングも入れる
- リターンは“その人がどれだけ早く価値を出せたか”で見る
- 不採用者データベースやタレントプールを作ると、分母が下がるのでROIは上がる
- 早期離職・都度募集・ゼロベース母集団はROIを下げる

